肘内障整復後も腕を使わない子ども ~エコーで見えた“引っかかり”~

2025年10月27日

肘内障の発生機序|

はじめに

お子さんの腕を引っ張ったあと、急に泣いて動かさなくなる──。

お母さん・お父さんにとってはとても驚く出来事です。

今回ご紹介するのは、前日に病院で「整復(せいふく)=関節を元に戻す処置」を受けたにもかかわらず、翌日も腕を動かさなかったお子さんのケースです。

整骨院の現場ではこのようなケースにときどき出会います。

✅もう整復はされているのに、痛みが残っているだけなのか

✅それとも、まだ正しい位置に戻っていないのか

──この判断が、実はとても難しいのです。

そして、今回のケースではエコー観察装置を使うことで、その答えがはっきりと見えました。

経緯

夜、お母さんが寝ているお子さんの姿勢を直そうと、左腕を軽く引いたときに「痛い!」と泣き出してしまったそうです。

肘内障の発生機序|夜、お母さんが寝ているお子さんの姿勢を直そうとしている画像

その後、腕をだらんと下げたまま、まったく動かさなくなったとのこと。

心配したお母さんは救急病院を受診。

病院では、医師から「肘内障かなあ?」という少し曖昧な説明があり、そのまま整復を受けたとのこと。

肘内障は、俗にいう“腕が抜けた”状態で、幼児によくみられるケガのひとつです。(肘内障についての詳細はこちら

整復のあとには「これで様子をみましょう」と伝えられたそうです。

帰宅後もお子さんは左腕を使おうとせず、翌朝になっても痛がる様子が変わらなかったため、大分ごとう整骨院へご相談くださいました。

来店時の状態

来店された時のお子さんは、左腕を体の横にだらんと下げたまま動かそうとせず、手を触ろうとすると少し顔をしかめていました。

「昨日されたあの痛いこと(整復)をまたやるのか」とでも言いたげに、警戒するような表情でこちらをにらんでいます。

エコーで肘を観察すると、『輪状靭帯が腕頭関節内に引き込まれるような形の変化(J sign)』が観察できました。

肘内障のエコー画像|腕頭関節内に輪状靭帯が嵌頓している(J sign)様子
(健側と患側を比較した画像)

また、肘の周りには目立った腫れや熱感がみられず、骨折を疑うような所見はありませんでした。

この時点では、整復が十分に行われず、輪状靭帯が関節内に入り込んでいる(嵌頓している)状態が考えられます。

エコーで確認できた“見えない引っかかり”

エコーを肘の前方から当てて観察すると、肘関節(腕頭関節)内に、細い帯状の高エコー像(=白く映る組織)が見えました。

肘内障のエコー画像|腕頭関節内に輪状靭帯が嵌頓している(J sign)様子(患側のみ)

これは本来、橈骨頭を取り巻く輪状靭帯(りんじょうじんたい)が、関節の中に“はまり込んでいる”状態を示しています。

つまり、整復を受けたにもかかわらず、実際には輪状靭帯が関節内に挟まったままで、完全には戻っていなかったのです。

整復操作とその結果

今回のケースでは、エコーの所見から整復が不十分で、まだ輪状靭帯が腕頭関節内に入り込んでいると判断し、回内法(手のひらを内に返す方向へ動かす方法)で整復を行いました。

整復の瞬間、「コツッ」という手ごたえがありました。

私の感覚としては、スナップボタンを“プチッ”と留めたときの感触に近いです。

整復直後にJサインは消失し、腕を自然に動かせるようになりました。

肘内障のエコー画像|腕頭関節内に嵌頓していた輪状靭帯が整復されている様子(J signの消失)

整復5分後には、「キラキラ」「バンザイ」「ちょうだい」などの動作がすべて可能となり、お母さんも安堵されたご様子でした。

肘内障のお子さんのお母さんとLINEでやり取りした際のトーク画面

また、翌日には痛みも腕の動かしづらさもなく、いつも通り元気に過ごされているようでした。

今回のポイント

このケースのように、「整復したはずなのにまだ痛がる」場合、大きく分けて2つのパターンが考えられます。

1️⃣ 整復が不完全で、輪状靭帯が関節に挟まっている
2️⃣ 整復はされているが、嵌入していた軟部組織の痛みがまだ残っている

この2つは見た目だけでは区別がつかないことも多く、不用意に再整復を試みると、痛みや恐怖心で緊張している子どもに余計な負担をかけてしまう恐れがあります。

実際には、整復が正しく行われれば痛みはすぐにおさまることがほとんどですが、まれに「もう入っているのにまだ痛い」というケースもあります。

だからこそ、「再整復すべきか、踏みとどまるか」の判断が重要になります。

今回のようにエコーを使えば、体の中で何が起きているのかを“見て確かめる”ことができます。

その「見える安心感」が、施術者の判断をより確かなものにし、利用者さんにとっても納得と安心につながります。

もし「前日に整復を受けたのに、まだ腕を動かさない」という場合には、ぜひ一度大分ごとう整骨院へご相談ください。

文責

大分ごとう整骨院

院長 後藤佑輔

【保有国家資格】柔道整復師・柔道整復師専科教員・社会福祉士

【その他】大分県 巻き爪専門サロンペディグラス 認定技術者

【所属】医療法人社団 栗原整形外科 宏友会

日本柔道整復師会

大分県柔道整復師会

日本超音波骨軟組織学会

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